7章 省農薬ミカンにかかる諸経費 1.はじめに 2.調査方法

1.はじめに

 

 この章では、生産費、出荷などにかかわる経費、農家所得それぞれについて、省農薬園で栽培された場合と、慣行園で栽培された場合とを比較し検討する。

 第5章の病害虫の発生量と果実の収量の関係からすでに明らかであるように、土壌に関する二つの主成分得点がともに高く、他の2区域よりも収量の高いSiteA、SiteBに関して、その収量を慣行園と比較した場合、調査園での約30%の減収が報告されている。本章では、まず、生産費の比較を行い、それをもとに、農家の収益性について考える。

 農家の収益性に関しては、省農薬園の収穫量と価格がどの程度であれば、省農薬園が慣行園と同程度の収益があげられるのかを検討する。

 また、有機栽培や省農薬栽培法によって作物が栽培されるときには、その多くが産消提携による産地直送形式で販売されるが、すでに体系化された市場システムを利用する場合と比べて、流通にかかる諸経費について、労働力など、大きな差異が生じる可能性がある。したがって、収穫後について、慣行園における集出荷から市場で卸売りされるまでに要する経費と、省農薬園における集出荷から消費者グループに売り渡されるまでに要する経費との比較を行う。

 

 

2.調査方法

 

 本章の考察は、毎年のデータをもとにした事例分析は行わずに、省農薬農法と慣行農法および、それぞれの出荷方法をモデル化して比較した。

 本調査園は省農薬農法の確立をめざしてはいるが、観察実験することを主眼とする園であるため、毎年、試行錯誤の作業が多く、現在までに省農薬農法の完成した形、あるいは完成に近い形には到達していない。そのため、毎年の事例に即して経費を計算すると、収量への影響がはっきりとしない物材にかかわる経費、たとえば、堆厩肥や椎茸の原木のホダ木、クローバー、イタライの種子投入に関わるものが含まれることになる。さらに、調査園を含む省農薬園の生産者である仲田氏は、慣行園における栽培、出荷も行っているため、農機具などの経費に関しては分割してとらえることが難しい。また、出荷に関しても、過去には複数の出荷ルートがあり、ルートごとにとらえることが難しい。以上の理由でモデル化したうえでの比較を行うことにした。

 モデル化に際しては、省農薬園と慣行園のそれぞれの経費を比較することを主眼とするため、慣行農法を調査園において行った場合を仮定し、両園において農法上の、あるいは、出荷形態上の理由から異なる部分の出てくる項目のみをとりあげた。

 省農薬園モデルは調査園のデータと生産者である仲田氏の聞き取りをもとに想定し、標準慣行園モデルは、第1章で述べられている複数の生産者の聞き取りをもとにした栽培管理法の記述に沿って想定した。

 また、調査園については、土壌の特性による園の4区分のうち、省農薬の栽培技術以外の原因で収量が少なくなっていると考えられる区域を除き、樹木の枯死頻度が少なく、収量の多い2区域(SiteA、SiteB)をモデルの基準とする。

 なお、今回の分析では、省農薬園と慣行園の果実の品位、品質が収益に及ぼす影響については一切考慮していない。