2章 省農薬園の土壌 の特性 3.結果及び考察 (1)~(3)

(1)土壌酸度および三相分布

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 三相分布およびpH(H2O)の測定結果を表2-1に示す。省農薬園表土の三相構造は固相、液相、気相の比が概ね5:2:3となっており柑橘園としては適性範囲と判断された。またpH(H2O)は5.72~6.54の範囲(中央値6.04)でこれも柑橘園としては好条件の範囲内であった。

(2)省農薬園の土壌の物理性

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 分析の結果得られたデータの基本統計量を表2-2に示す。なおプロットNo. 44の土壌窒素、カルシウム含量が異常に高い数値(>+3σ)を示したため、異常値と判断して以降の解析からは除外した。

a.有効土層の深さ(図2-3)

 表土の厚さ、有効土層の深さの等値線図を図2-2, 3に示した。園北部および南部の斜面上部に表土の薄い土壌が存在した。有効土層の深さが1mをこえ、それ以上検土杖での測定が不可能だった地点が園中央から南部に広範囲に存在した。園北部では園中南部に比べ有効土層が明らかに浅く、50cmに達しない土壌も数地点存在した。

b.貫入硬度(図2-4)

 園中南部の土壌は緻密であったが、園北部にはきわめて脆弱な土壌が存在した。

c.礫含量(図2-5)

 礫含量は最低でも50%を越えており、これは一般の柑橘園と比べて明らかに多い数値であり、省農薬園は全体として礫質土壌といえる。特に園北部および南部の周縁部に礫含量の多い土壌が存在し、対して園中央部は礫含量の少ない土壌であった。

d.土壌物理性の総合

 土壌物理性4因子の相関行列を表2-3に示す。有効土層の深さと貫入硬度に正、礫率に負の相関がみられた。これは園北部の土壌は有効土層が浅く、軟弱で礫を多量に含むこと、逆に園中南部では礫含量の少ない緻密な、有効土層の深い土壌が存在することを示している。これは造成、開園時に斜面を均平化するために園北部の表層を削って園南部に移動させたため、園北部の表層の土壌が失われて、園南部のみ深い土層になってしまったことを反映している。

 このように省農薬園の土壌物理性は、造成時の条件に由来して不均質であり、特に園北部と園中南部では大きく異なっていることが明らかとなった。


(3)土壌の無機養分含量

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 分析の結果得られたデータの基本統計量を表2-2に示す。また図2-6~11に測定した各元素の測定値の分布を示す。

a.全窒素(図2-6)

 園の斜面上部の周縁部において窒素含量が高い地点が数ケ所存在した。これはこの地点に施肥された堆肥(後述)が偏在していたためと考えられる。この点を除くと、園中南部の窒素含量が比較的高く、園北部では低いという傾向を認めることができる。

b.全リン(図2-7)                                  

 窒素と同様に斜面上部の周縁部に含量の高い地点が認められる。さらに園中央部の含量が高く、北部では低いという傾向が明瞭に認められることも窒素含量の分布と同様である。

c.カリウム(図2-8)

 窒素、リンとは異なった分布を示した。すなわち園北部に含量の高い地点が存在し、また園斜面上方に較べて下方の含量が高いという結果が認められた。

d.カルシウム、マグネシウム(図2-9、10)

 カルシウムは窒素、リンと同様に園周縁部において高い測定値が得られた。また園北部よりも園南部の含量が高いという、窒素、リンと類似の分布を示していた。

 マグネシウムもカリウムを除く3元素と同様に、周縁部に含量の高い地点が認められた。さらに園北部よりも園南部が含量が高いという結果が得られた。また斜面下方が上方よりも含量が高いという傾向がみられた。

e.土壌養分含量の総合解析

 土壌養分含量5因子の相関行列を表2-4に示す。窒素、リン、カルシウムの3元素間にいずれも高い正の相関が認められた。またカルシウムとマグネシウム、カリウムとマグネシウムの間にも低い正の相関係数があらわれた。

 カリウムを除く4元素はいずれも園の斜面上方の周縁部に高い分析値を示す地点が存在してした。さらに園南部より園北部が含量が低いという分布を示していた。

 省農薬園では園の斜面上部、農道脇に堆肥を積み上げ、斜面沿いに施肥することがある。苦土石灰も同じ方法で投入される。そのため、周縁部から得られた試料にその影響があらわれ、堆肥および苦土石灰由来の養分含量で高い分析値が得られたと推察される。またカリウムとマグネシウムの間の相関関係は、この2元素が他の3元素に比べて溶脱しやすい性質があるため、斜面下方での含量が高くなったと考えられる。特にカリウムは、他の4元素に比べて移動性が高いため溶脱が早く、斜面下部でその含量が高くなったと考えられる。カルシウムとマグネシウムの正の相関は、施用された苦土石灰が斜面上部に残存しており、それが試料に混入したためと考えられる。

f.堆肥投入によるデータの歪み

 本調査の結果の解釈にあたっては次の点を考慮する必要がある。1989年4月に省農薬園において園北部に塹壕を堀り、完熟牛糞堆肥を大量に投入した。堆肥投入区域は図2-1に示す。この一帯のミカン樹の生育が不良であるため、土壌養分の不足を改善させようとの措置である。

 したがって1990年11月に得られたデータが、堆肥投入による歪みを受けている可能性が示唆された。そこで堆肥投入の影響を除外し、省農薬園の土壌の本来の性質を推定するために、堆肥を投入した部分(撹乱区)とそれ以外の部分(非撹乱区)とにわけ、それぞれのデータの分布を検討した(図2-11)。

 マグネシウムを除く4元素で撹乱区の変動係数が非撹乱区のそれを上回っていた。これは撹乱区の養分含量が堆肥投入により上昇した可能性を支持する。通常、耕地土壌の理化学的特性はおおよそ対数正規分布することが知られている[2-2]。窒素、リン、カルシウム含量の分布は撹乱区、非撹乱区ともに対数正規分布に適合したが、カリウムは撹乱区、非撹乱区両区で、マグネシウムも撹乱区で対数正規分布に適合しなかった。対数正規分布に従った3元素はいずれも非撹乱区の養分含量が撹乱区の数値を有意に上回っていた。カリウム、マグネシウムは撹乱区と非撹乱区の差が有意でないか、むしろ撹乱区において含量が高かった。このことはカリウムのデータが試料採取前年の堆肥投入による影響を大きく受けているという仮説を支持する。すなわち、カリウムは他の元素より移動性が高く、前年に施された堆肥から斜面下方へ広範囲に溶脱した結果、園北部一帯で特に含量が高いという特異的な分布がみられたと推察した。

 また、plot No.12, 20では窒素およびリンが、plot No. 2, 127ではカルシウム、マグネシウムが突出した値を示した。これらの地点はいずれも斜面最上の周縁部であることから、試料中に堆肥あるいは苦土石灰が混入していたものと考えられる。そのため以後の解析(2-3(5))からは除外した。

このように、一部のデータが堆肥投入による歪みを受けていることが示唆された。しかしその点を除外すると、概して園北部の土壌は無機養分含量が低く、中南部は高いという傾向を認めてよい。

 

 文献

 

2-1)岩本数人(1982)カンキツ園の土壌管理と施肥技術.千葉勉編著「果樹園の土壌管理と施肥技術」pp. 219-256.

2-2)小畑仁・関谷宏三・安酸俊行(1977)果樹園における土壌及び葉のサンプリングに関する検討(第1報)モモ園における二三の土壌化学性及び葉分析について.果樹試報A4:45-53.

2-3)佐藤公一・石原正義・栗原昭夫(1958)果樹葉分析に関する研究(第20報)生産力の異なる温州みかん及び梨園の葉分析による比較(1956年)農技研報E 7:41-54