4章 省農薬園における 雑草発生状況とその防除 3.結果

(1)植生の概要

 

 

 調査期間中に省農薬園に出現した雑草種は全42科134種が確認された(表4-2)。しかし3年間毎年、園内で生育を確認した種はその半数以下である。すなわち表中の多くの種は、調査園内で生活環を完結することのできない偶存種であり、刈取や除草剤散布が行なわれる通常の管理条件下では個体群の維持が困難である種と考えられる。また連年生育を確認した草種でも、園の周縁部のみに生育が確認され、園内部への侵入、定着が認められない種も多かった。全出現種の生活型組成をみると、Th-D4-R5の一年生草種が多数を占めている。表中太字で示した種は調査期間中毎年発生が見られ、かつ生育盛期の被度が1%を越えた種である。その23種中、19種が一年生草種であり、省農薬園の雑草群集は一年生草種が主体となっていることが明らかである。帰化種は50種で、帰化率は37.3%であった。一部の帰化種は本邦で報告の稀な種[4-11]が含まれており、輸入飼料から牛糞堆肥を経由して園内に侵入、定着したことが推察される。

 

(2)生活型と季節変動

 

 

 出現した草種をその休眠型によって夏生一年草(Th)、冬生一年草(Th(w))、多年草(シロクローバを除く)に分類し、それぞれの被度の推移を図4-2に示した。被度でみても省農薬園の雑草群集の構成は一年生草種が主体であることが明らかである。春期から夏期にかけて、また夏期から秋期にかけて冬生一年草と夏生一年草の草種の交替が顕著である。草生被覆を意図して導入したシロクローバを除くと、多年生草種の被度は合計しても最高で5%以下であった。

 

 

(3)園内の相対照度分布

 

 

 園内の地表面の相対照度の分布を図4-3に示した。園北部は相対照度が高く、中央部で低いという傾向が明らかである。また南部にも局所的に相対照度の高い部分が存在する。 前章の結果、とくに土壌物理性(有効土層の深さ、礫含量)の差異にもとづいて、調査園を図4-1のように、北部、中央部、南部に区分した。各区域の土壌、ミカン樹の幹周、地表面の相対照度を表4-3に示す。北部の相対照度は4回測定の平均値で65.6%と、中央部の28.1%、南部の29.5%よりも明らかに高い。すなわち園北部では、ミカン樹の生育が抑制された、あるいは枯死により欠株が生じた結果、地表面に日射が到達しやすいことを示す。一方園中央部ではミカン樹の旺盛な生育の結果、樹冠が相互に重なり合い、日射が遮蔽され、地表面の相対照度は低くなっている。園南部では土壌物理性、ミカン樹の幹周は北部と中央部の中間の特性を示しているが、相対照度では中央部に近い値だった。このように省農薬園の不均一な土壌物理性が、ミカン樹の生育に影響を及ぼし、地表面の日照条件に影響を及ぼしていることが確認された。

 

 

(4)植被率の推移

 

 図4-4に北部、中央部、南部の各区域毎の植被率の推移を示す。植被率は刈取後の減少が顕著である。しかし刈取の間隔が長くなると植被率は増加し、その場合、北部が最も高いという傾向がある。1989年4月の北部での植被率の急激な減少は、この地域で土壌改良工事が行なわれたため、その撹乱によって大きな裸地が生じたことによる。

 

 

 

(5)被度-種順位関係

 

 図4-5に省農薬園各区域の夏期(1989年8月)と春期(1990年5月)の特徴的な雑草群集組成を被度ー種順位曲線によって示す。夏生一年草の最盛期にあたる8月中旬は北部でメヒシバ(Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler)が圧倒的に優占する群集組成となっている。また南部でもメヒシバが最優占種である。しかし中央部では前年秋期に播種されたシロクローバが、盛夏期にもかかわらず最優占種であり、メヒシバの被度は20%以下で次優占種である。また北部ではメヒシバ以外の夏生一年草数種(イヌビユ、エノコログサなど)が中位の種群にあるが、中央部ではそれらの地位は低い。北部、南部に比べ中央部では、イヌムギ(Bromus catharticus Vahl)をはじめとする冬生一年草の被度が高いのも特徴である。

 冬生一年草の開花結実期にあたる1990年5月では、北部ではイヌムギが最優占種であるが、中央部、南部では導入したシロクローバが最優占種である。次優占種は北部ではシロクローバ、中央部ではイヌムギ、南部ではコハコベ(Stellaria media (L.) Vill.)とそれぞれ異なっている。夏生一年草に比べて冬生一年草は出現種数が多く、その被度も互いに近接する傾向がある。春期の雑草群集は、メヒシバのみが優占する夏期の群集に比べ多様度が高いといえる。またイヌムギの草丈は無刈取で放置した場合、出穂時に1mに達するが、それ以外の冬生一年草の草丈は低く、ハコベ類で通常30cm以下である。

 北部、南部では、夏期、春期ともに大型のイネ科雑草がよく繁茂し、無刈取で放任した場合その草丈は1mに達する。一方相対照度の低い中央部では、そうしたイネ科雑草の被度は低く、ハコベ類など草丈の低い草種が優占する傾向にあった。

 

 

 

(6)シロクローバの消長

 

 図4-6に各区域のシロクローバ被度の推移を示す。1988年10月の播種以降、中央部では順調にクローバの被度が増加したが、北部では1989年4月の堆肥投入による土壌撹乱のために壊滅的な打撃を受け、以降の被度は低く推移した。また南部では1988年から1989年の冬期に枯死した個体が多く、それが翌春の被度の低下となって現れた。そのため1989年夏期以降のシロクローバの被度は、中央部が最高で南部、北部という順位が維持された。いずれの区でも1989年夏期に一時被度が減少した後、1990年5月に最大の被度となり、他草種の生育を抑制する効果が認められた(図4-5)。しかし、同年夏期以降、高温乾燥やイネ科雑草との競合によって急激に衰退し、翌年以降もクローバの被度は回復しなかった。

 

 

 

 

(7)主要多年生雑草の消長

 

 一般に樹園地で害草度の高い草種は、刈取後も地下茎などの栄養繁殖によって増加する多年生草種である。ヨモギ、チガヤ、ヒルガオなどが柑橘園地帯の問題雑草とされているが[4-12]、省農薬園ではそれらの発生は少ないか認められない。

 図4-7に省農薬園に生育していた主要な多年生草種10種の被度と出現頻度(出現区数/全調査区数×100)の推移を示す。いずれも1988年から1991年までの調査期間中にその生育が増加する傾向を示した種である。図4-7の左側の5種(タンポポ属:セイヨウタンポポおよびカンサイタンポポ、キクノハアオイ、カタバミ、トウバナ、ヘビイチゴ)の生育型はロゼット型または匍匐型で、その生長点が地表面付近に存在する。これら5種は周期的な季節変動を繰り返しつつ、次第にその出現域を増加させている。これは生長点が低いという生育型のために、刈取の影響を受けることなくその生育を続け、繁殖していることを示すものである。

 一方、図4-7右側の5種(ギシギシ属:ギシギシおよびスイバ、カギミギシギシ、ヨメナ、ヨモギ、イタドリ)は大型で直立する地上茎を持つ種である。刈取によって地上部が失われるためにその被度、出現頻度の変動が著しい。しかし、刈取後も地下部栄養繁殖器官からの再生が旺盛であり、その生育は増加を示している。そのためこれらの草種は1990年5月にglyphosate剤によるスポット処理の対象となった。図中の矢印部分の被度、出現頻度の減少は除草剤による枯死、衰退を示している。しかしながらいずれの草種も根絶されることはなく、地下部からの再生あるいは種子繁殖による新たな実生の出現によって再び増加の傾向にある。