4章 省農薬園における雑草発生状況とその防除 1.はじめに 2.調査方法

1.はじめに

 

 雑草は養水分競合によって作物を減収させる。永年生作物である果樹の場合、その影響は翌年以降も累積するため幼木時の雑草管理はとくに重要である。また果樹に対する直接の影響以外にも、繁茂した雑草は作業に支障をもたらすため、適切な防除が必要である。しかしながら果樹栽培の場合、傾斜地における土壌保全や有機物の供給といった雑草の利点もまた存在する。そのため草生栽培による土壌保全、土地生産力の増強は昭和30年代以降、多くの試験研究が行われ、推奨されていた[4-1]。しかしその後昭和40年代からの除草剤の急速な普及と農業労働力の減少、さらには草生維持の不安定性などの事情から、草生栽培は次第に除草剤に依存した雑草草生へと代わっている場合が少なくない[4-2]。また1980年代末から始まった果樹の生産調整と産地間競争は、生産現場により高品質の果実生産を要求している。糖度の上昇、果皮の良好な着色などの品質、品位の向上のために、緻密な肥培管理、地温管理が求められ、そのためマルチング、裸地管理など集約的な地表面管理が必要となる場合が多くなっている。

 一方省農薬園のように、厳格な果実の品質、品位が要求されない果樹栽培も少数ながら存在している。有機農業などの場合の雑草管理は、除草剤の使用を減らし、かつ地力維持を図るために、機械による除草作業を年間数回行なっている事例が多い[4-3]。

 果樹園雑草は通常、多様な生態的特徴をもつ種の混合群落である[4-4]。その組成は除草剤[4-5]、刈取、耕起、鎮圧などの様々な耕種操作によってときに劇的に変動しうる。また開園後の年数、立地条件、樹冠下の日照条件など自然条件の影響も少なくない[4-6]。このように雑草管理においては除草剤以外の要因も大きな影響を与えるため、雑草群集に与える除草剤散布の影響は、病害虫に与える殺菌、殺虫剤ほど決定的なものではない場合が多いと考えられる。果樹園の雑草群集の動態と管理法との関係について知られている知見は、果樹園雑草群集の多様な実態に比べて非常に乏しい。したがって「省農薬栽培」における雑草群集と「慣行栽培」におけるそれとを明確に特徴づけ、比較することは困難である。

 省農薬園ではおもに年3~4回の肩掛け式刈り払い機による機械的防除、あるいは春期と夏期の2度の除草剤散布及びそれらの併用による雑草管理が行なわれてきた。表4-1に1988年から1991年にかけて行なわれた管理作業を示す。表に示した以外にも、幼木の株元は鎌による手刈り除草や敷き藁、飼料袋などによるマルチングを行ない、雑草の繁茂を防ぐ方策がとられている。またつる植物などの強害多年生雑草は随時作業中に除去されている。斜面での刈り払い機による刈取作業は危険を伴い、また夏期の作業はかなりの重労働でもある。さらには近年は作業者の高齢化も伴なって、雑草管理を除草剤に依存する頻度が増してきている。

 省農薬園では病害虫防除については開園以来、最低限の農薬使用に抑えてきた。雑草管理においても可能な限り除草剤への依存を脱することが望まれてはいるが、これまでのところ過去に牧草草生の導入などの試みがなされてはきたが[4-7, 8, 9, 10]、慣行栽培と比較して特筆すべき省農薬管理は実現されてはいない。ここではまず省農薬園に生育する雑草の実態を明らかにすること、次に雑草の生育に大きな影響を及ぼす要因として、地表面の日照条件と刈取を取り上げ、それらと雑草群集との関係を考察する。なお本章では省農薬園に生育する植物種のうち、ミカン樹およびイヌマキなど防風林以外の種子植物を雑草とした。

 

 

2.調査方法

 

(1)植生調査

 1988年5月から1991年11月まで、省農薬園内に生育する雑草種をすべて記録した。現場で同定することの困難な種はさく葉標本を作成し、同定した。標本は全て京都大学農学部雑草学研究室標本庫に保管されている。雑草の植生調査は1988年10月から開始し、一年目は毎月、二年目以降は3月から11月までほぼ一ヶ月おきに行なった。4本の樹の樹間全458地点(図4-1)に1㎡の方形枠を設置し、出現草種とその被度を達観で判定した。

 また1988年10月15日に草生被覆を意図して、シロクローバ(Trifolium repens L. cv. Grassland Huia)種子を調査園内に0.6kg/10a散播した。シロクローバの生育も植生調査により追跡した。

 

(2)地表面の相対照度

 

 1989年8月20日、9月23、24日および11月5日の4回、晴天の日の正午から午後2時にかけて、全458植生調査枠の中央部で光電池式照度計を用いて照度を測定した。同時刻の樹冠の照度も測定し、その値を100として樹冠下の相対値を算出した。