5章 病虫害の被害解析 3.結果

(1)果実収量の年次変化

 

 1983、87、91年の測定によってもとめられた、果実の1個の平均重量は、それぞれ、95.0g(標準偏差 = 29.91)、111.2 g(21.42)、108.7 g(23.66)となった。この3つの値の平均、105.0gを収穫果実数に乗じて、各年次の省農薬園全体の果実の収量を算出した(図5-1)。およそ1年おきに収量が増減する、いわゆる"隔年結果"の効果が現れているが、その効果を考慮すると、1983年頃から収量は比較的安定していた。1983年以降の平均果実収量は、年当たり7.40 tとなった。

 

(2)省農薬園の収穫果実数にあたえる病害虫および土壌の影響

 

 式5‐1にもとづく重回帰分析に先だち、説明変数として用いた7変数のなかの2変数間の交互作用の有意性の有無を確かめるために、式5-1の説明変数の項にすべての2変数の組み合わせ21種類の交互作用の項を加えたモデルを作成して、SAS統計パッケージのGLM Procedureをもちいた分散分析を行なった。3変数以上の間の交互作用は無視した。その結果、そうか病密度とツノロウムシ密度の交互作用の項だけに有意性が検出された(F = 8.99, p = 0.0029)。そこで、この項だけを、もとの重回帰式(式5-1)の説明変数に加えて、重回帰分析(SAS, REG Procedure)を行なった。その結果、土壌の特性についての第1主成分得点以外のすべての変数と、12年間の平均収穫果実数の間には有意な相関が検出された(表5-2)。ヤノネカイガラムシ、ツノロウムシ、そうか病の平均密度、土壌の第2、第3主成分の得点とは正の相関が、ルビーロウムシの平均密度とは負の相関が認められた。ツノロウムシとそうか病の交互作用の項は、有意な値を示しており、ツノロウムシ、そうか病それぞれの平均密度と平均果実数の回帰直線の傾きは、相互の量の変化に依存して変化することが示された。

 

(3)土壌条件と枯死頻度の関係

 

 まず、3種類の土壌の主成分得点が、原因別の枯死頻度および総枯死頻度にあたえる効果について、すべての交互作用を含めて、分散分析を行なった。その結果、ほとんどの枯死の場合において、交互作用の項は、枯死頻度に有意な効果をあたえていないことが示されたので、交互作用の項を除外して、3種類の土壌の主成分得点の主効果のみの分散分析を行なった(表5-3)。

 総枯死頻度、風倒と原因不明による枯死を除いた枯死頻度、害虫(ヤノネカイガラムシ、ルビーロウムシ、ゴマダラカミキリ)のいずれかの食害による枯死の頻度、幼木の定着失敗による枯死頻度、ゴマダラカミキリの食害による枯死頻度のそれぞれと、土壌の「物理的好適性」を示す第2主成分得点との間には、負の相関のあることが示された(表5-3)。また、ルビーロウムシの食害による枯死頻度は、「易溶性栄養物質に関する富栄養度」をあらわす土壌についての第3主成分得点に対して、有意な負の相関を示していた。一方、ヤノネカイガラムシの食害による枯死頻度、風倒による枯死頻度は、いずれの土壌についての変数とも有意な相関関係はなかった。また、第1主成分得点はいずれの枯死頻度に対しても有意な相関関係を示さなかった。

 

(4)土壌条件による省農薬園の区分けと各区における病害虫密度・枯死頻度・果実収量

 

 以上で示したように、土壌に関する第2主成分得点と第3主成分得点は、果実収量ならびに、いくつかの要因別の枯死頻度と有意な相関関係を示していた。この2つの主成分得点の省農薬園内の平面的な勾配をみると(図5-2 a, b)、省農薬園は、土壌条件の異なる次の4つの部位に区分することができた。第2主成分、第3主成分のいずれの得点も相対的に高い部分(Site A)、第2主成分得点はSite Aと同様に高いが、第3主成分得点は比較的低い部分(Site B)、逆に、比較的第3主成分は高いものの、第2主成分がかなり低い部分(Site C)、いずれの得点も低い部分(Site D)の4部分に区分けした(図5-3)。

 ヤノネカイガラムシとルビーロウムシの密度は、Site A, Cで低く、Site B, Dで高かった(図5-4 a, b)。ヤノネカイガラムシの密度については、Site AとCの間には有意差がなかったが、それ以外の区間には有意差が認められた。ルビーロウムシでは、Site A, Cの間とSite B, Dの間には、それぞれ有意差が認められなかったが、Site A, CとSite B, Dの間には有意差が認められた。

 ツノロウムシの密度は、Site B, C, A, Dの順に高く、それぞれの区間で有意差が認められた(図5-4 c)。

 そうか病の密度は、Site Aでもっとも高く、Site Dでもっとも低くなった(図5-4 d)。Site B, Cの間には、そうか病の密度に有意な差はなかった。

 12年間を平均した年当たり株当たり収穫果実数は、Site A, B, Cでは、それぞれ109.1, 115.8, 99.1個となり、これらの間には有意差がなかった。Site Dでは65.8個となり、他の3区よりも有意に少なかった(図5-5)。

 すべての枯死原因をこみにした枯死頻度は、Site D, C, B, Aの順に高かった(表5-4)。苗木の定着不良、昆虫類の食害、ゴマダラカミキリの食害、ヤノネカイガラムシの食害、ルビーロウムシの食害のそれぞれによる枯死頻度も同様の傾向を示し、いずれの場合でも、Site D, Cで高く、Site B, Aで低かった(図5-6、表5-4)。のべ枯死回数、苗木の定着不良による枯死回数、昆虫類による合計枯死回数、ゴマダラカミキリによる枯死回数についてχ2による独立性検定を行なったところ、区間に有意差が検出された(それぞれχ2= 64.373, p = 0.0001; χ2 = 15.930, p = 0.0003; χ2 = 32.888,p = 0.0001; χ2 = 23.591, p = 0.0001、表5-4)。