6章 果実の品位・品質解析 1.はじめに 2.調査方法

1.はじめに

 

 農作物を一般の市場で流通させる際には、出荷前に農協や出荷組合などで選果を行なう。そこで農作物は定められた出荷規格に準じて大きさによる階級(L,M,S等)や品位・品質による品等(秀、優、良等)等によりランク分けされる。出荷規格は多くの農産物で国や県により公的な基準が定められているが、地方の農協や出荷組合では、産地ブランドを形成するためにさらに厳しい独自の基準が制定されていることも少なくない。農作物の場合、産地ブランドによる卸売価格差は大きく、産地全体で品質を安定化させ、産地ブランドを形成することは生産者にとって切実な問題である。調査地のある下津農協には表6-1に示したような温州ミカンの出荷基準が定められている。この出荷規格に適合しない「規格外農作物」は加工用となるか、最悪の場合廃棄されることになる。流通過程で決まってゆくミカン価格は、品等、階級によって大きく異なっており、どの様な品位・品質のミカンが収穫されるかは、一般の流通経路を経て農産物を出荷する生産者にとって、生活を左右する大きな問題と言える。

 本章では省農薬ミカン園で収穫されたミカン果実の品位・品質を慣行園のそれと比較するとともに、本園においてミカン果実の品位・品質に影響を与える要因について検討した。品位・品質の定義は明確に一般化されていないが、ここで品位とは、色つや、形状、および果実表面に認められる外傷、病斑や害虫の個体数で評価される外観を指し、ミカンの品質とは、ミカンの糖度、酸度や栄養といった内容的なものを指すこととする。

 品位・品質調査は、本園の調査期間のすべての年度では行なわれておらず(表6-2)、本報告書では1983年および1993年の収穫時に行なった調査を中心に記述する。1983年の調査時には、ミカン果実の品位が品質に与える影響を主な目的とし、1993年の調査時には土壌の質がミカン果実の品質に与える影響を主な調査目的としている。

 

 また、考察で述べたミカン栽培における一般的な技術や、糖度、酸度などへ影響を与える要因に関する教示は、和歌山県果樹園芸試験場・主任研究員 菅井晴雄・鯨幸和氏、JA和歌山営農対策室生産対策課・課長代理 宮脇俊弘氏、JA下津町・和歌山県果樹園芸技術員・営農指導部主任 岡畑浩二氏らへの聞き取り調査によって得た。ここに厚く御礼申し上げたい。

 

 

 

2.調査方法

 

(1)品位の評価法

 

 ミカン果実の品位を決定する要素として、本園ではそうか病斑が最もよく観察され、次いでヤノネカイガラムシ、黒点病等が観察された。しかし、そうか病の頻度が他の病虫害に比べ極めて多かったため、ミカン果実品位の評価値は、果実におけるそうか病斑被覆度で代表させた。

 省農薬園の調査区域から15本の調査木を選出し(図6-1-a)、一本の調査木を4つの区画(樹冠赤道面を境にした上下、斜面に向かって左右の組み合わせにより区分)に分け、各区画から5個ずつ、一本の調査木より20個のミカン果実を収穫前に採取した。これらのミカン果実の品位を表6-3-aに示した基準によって判定した。一本の調査木から採取されたミカン果実の品位の判定値を総合し、その調査木の果実品位の評価値を算出するために表6-3-bの計算法を用い、調査木の果実発病度とした。

 また、対照区として本調査園の近隣に存在する慣行防除園から選出した5本の調査木、また、7箇所で購入した市販のミカンを用いた。各々の対照から、それぞれ5個のミカン果実を無作為に選び、上述の方法で品位を判定した。品位評価は1983年の調査時にのみ行なった。

 

 

(2)品質の評価法

 

 品質は味・収量に影響を与える要素である糖度、酸度、果実重をそれぞれ評価値として用いた。1983年の品質調査には、品位評価に用いられたミカン果実を使用し、1993年の調査時には、調査園の土壌の評価により分けられたランクにより調査木を選び(図6-1-b)、各調査木より4個ずつのミカンを採取して使用した。品質調査の項目は、ミカン果実の糖度、酸度、果実重、果実直径の4点であるが、年度によってはその一部のみを調査した。糖度、酸度はすべての調査年度で測定した。

 また、1983年は品位評価に用いた本園近隣に存在する防除園、市販のミカン果実を品質の対照としても使用し、1993年は仲田氏の慣行防除園のミカン果実を対照として用いたが、後者では採取ミカン個数が少なく、また採取日時が調査園のものより3~4週間ほど遅かったため、参考程度にとどめ、詳しい解析の対象とはしなかった。

 

a.ミカン果実の糖度の測定法

 ミカン果実の糖度測定は、糖度計(ATAGO N1)を用いた。ただし、1993年調査時には、糖酸分析装置(HORIBA, NH-1000)を用いて測定を行なった。

 ①糖度計を用いた測定

 果実の外皮を取り除いた後、市販の圧縮型絞り器で果汁を抽出した。1,000rpm、5分間の遠心分離により残渣を取り除き上清を得た。この上清の糖度を糖度計によって測定した。

 ②糖酸分析装置を用いた測定

 ミカン果実をナイフで半分に切断し片手で絞り、プラスチックの容器に果汁を抽出した。茶こしで残渣をこした果汁をシリンジで吸入し、約5ml の果汁を糖酸分析装置に注入して糖度を測定した。

 

b.ミカン果実の酸度の測定法

 ミカン果実の酸度測定は、滴定法を用いた。ただし、1993年調査時には、糖酸分析装置を用いた。糖酸分析装置による酸度の測定手順は、糖度の測定と同じである。

 ①滴定法を用いた酸度の測定

 糖度の場合と同様にして得た果汁上清1mlを純水で25mlに希釈し試験液とした。試験液5mlを純水で25mlにした後、0.05規定の水酸化ナトリウム溶液で滴定して酸度を求めた。水酸化ナトリウムを0.1規定シュウ酸溶液で逆適定することにより、果汁の酸濃度(規定度)を求めた。この酸濃度をクエン酸に換算し、クエン酸濃度として酸度を算出した。