6章 果実の品位・品質解析 3.結果

(1)ミカン果実の品位分析

 

a.果実の品位

 省農薬園のミカン果実の品位構成は、品位0:21.5%、品位1:35.6%、品位2:28.4%、品位3:13.1%、品位4:1.5%であり、品位の平均は1.37であった(図6-2-a)。慣行防除園の品位構成は、品位0:80%、品位1:16%、品位2:4%で、品位3および品位4の果実は認められず、品位の平均は0.24であった(図6-2-b)。また、市販のミカンは、品位0:77.1%、品位1:22.9%で、品位2、品位3および品位4の果実は認められなかった(図6-2-c)。品位の平均は0.23であった。

 省農薬園のミカンは、品位0から品位4まで広く分布したが、主に品位0~2に集中し、この範囲のミカンが85.5%を占めた。一方、慣行防除園、市販のミカンは品位0、1に98%が集中し、その内でも品位0のミカンが80%前後を占めた。この結果、省農薬園の果実と慣行防除園、市販のミカン果実の品位には大きな差があることが明らかとなった。

 

b.果実品位とミカン葉のそうか病との相関

 表6-3-bによって算出した果実発病度と、果実を採取した調査木のその年度の7月と11月のそうか病発病グレイドの平均との相関を調べることによって、ミカン葉のそうか病が果実品位に与える影響を評価した。グレイド法によるそうか病ランクの7月および11月の平均と果実の品位の間には有意な正の相関が検出された(N=15, r=0.655, ANOVA, F=9.783, P=0.008)(図6-3)。このことから、ミカン葉におけるそうか病の発病度合は果実品位に大きな影響を与えることが分かった。

 

c.果実品位と着果部位の関係

 

 一本の調査木を樹冠赤道面を境にした上下と斜面に向かって左右の組み合わせによる4つの部位に分け、各区画から採取したミカンの品位平均を求めた。平均はそれぞれ右下:1.2、右上:1.21、左下:1.74、左上:1.36であり、左下の区では他の部位と比較して有意に品位が低いことが示された(T検定, T=3.394, P=0.0008)。省農薬園の斜面は西向きであり、斜面に向かって左は北の方角となり、有意に品位が低かった左下は樹木の北側下層にあたる。日照量はミカンの品位、品質に大きな影響を与えると言われており[6-1]、この調査結果も、日照量の影響と考えられる。

 

 

(2)ミカン果実の品質分析

 

a.年次変化

 ミカン果実の品質(糖度・酸度)調査は、1979~1981、1983、1985~1986、および1993年に行なった。各年度の平均糖度・酸度は表6-2に示した。平均糖度は、最低値が8.44(1985年)、最高値が11.5(1979年)となっており、年度による変動がかなり大きいことがわかる。調査年度の総平均糖度は、9.84であった。

 平均酸度は、最低値が0.96(1980年)、最高値が1.50(1979年)となっており、平均糖度同様に年度による変動がかなり大きいことが示された。酸度の総平均は、1.30であった。ミカン木の果実酸度は、10月上旬をピークとして時間とともに減少していくことが知られている[6-2]。本調査でのミカン果実のサンプリング時期は年度によって異なっており、これによる変動も含まれていると考えられる。しかし、年度間の変動幅が大きいためか、サンプリング時期と酸度との明確な相関は認められなかった。

 

b.慣行園との比較

 ①糖度

 慣行園との比較調査は、'83年および'93年に行なった。'83年度は、省農薬園のミカン果実糖度の平均、最低値、最高値はそれぞれ、10.64、7.4、14.6であり、対照区となる市販ミカン、慣行園のミカン糖度の平均、最低値、最高値はそれぞれ11.12、8.3、13.7(市販)、12.60、9、14.4(慣行園)であった(表6-4)。'93年度は、省農薬園のミカン果実糖度の平均、最低値、最高値はそれぞれ、9.65、8.1、11.9であり、対照となる慣行園ミカンの糖度平均は8.60であった(表6-4)。'83年の省農薬園のミカン果実糖度は、最高値では劣らないものの、最低値、平均値では対照区に比べ低い値を示した。省農薬園と他の区との果実の平均糖度をT検定によって検定したところ、市販ミカンとは5%水準で有意な差は認められなかったが、慣行園とは1%水準で有意な差が認められた。また、市販ミカンと慣行園ミカンとの間にも1%水準で有意な差が認められた。'93年調査の対照区となる慣行園ミカンの糖度平均は8.60であり、'83年の調査とは逆に省農薬園の果実の平均糖度がやや高いことが示された。

 '93年調査時は、'83年度と比較して省農薬園、慣行園ともに低い糖度値を示したが、この年は夏期に低温が続いた年度であり、稲作においても大凶作となったことは記憶に新しい。このため「ミカン糖度は平年より1~1.5低くなっている」(下津農協ミカン品質調査係談)とのことであり、本調査における結果もその影響を反映しているものと思われる。

 

 ②酸度

 省農薬園のミカン果実酸度の平均、最低値、最高値はそれぞれ、1.44、0.78、2.34(1983年)、1.41、0.86、2.57(1993年)であった(表6-4)。'83年の対照区となる慣行園のミカン酸度の平均、最低値、最高値は1.45、1.05、1.78であり(表6-4)、省農薬園と比較してほぼ同水準であった。ミカン果実の酸度は結実後、10月上旬をピークとして、日数が経過するにつれて減少することが知られており[6-2]、省農薬園、慣行園ともに酸度が高いのは、サンプリングを収穫時期よりかなり早い11月上旬に行なったためと考えられる。市販ミカンは、流通の過程を経て収穫後かなりの日数が経過していると考えられるため、省農薬園のミカンと比較することは無意味と考え、対照としては用いなかった。また、'93年の調査では、対照区となる慣行園ミカンの酸度平均は1.10であり、省農薬園と1%水準で有意な差を示したが、計測時期が3~4週間異なっているため正確な対照とはならないと考えられる。

 

 ③果実重

 果実重の調査は1983年にのみ行なった。省農薬園のミカン果実果実重の平均、最低値、最高値はそれぞれ、95.0、27、206であった。対照区となる市販ミカン、慣行園のミカン果実重の平均、最低値、最高値はそれぞれ100.1、73、152(市販)、105.6、63、166(慣行園)であった(表6-4)。果実重は、糖度、酸度と比較して分散が大きいため、サンプリング数が多い省農薬園で広範囲にわたり分散する結果となった。市販ミカンは選果時の選別の影響でやや分散が小さくなっているが、慣行園と省農薬園はほぼ同じ分散を示した。省農薬園と対照区間で平均果実重の有意な差異は認められなかった(T検定, T=1.697, P=0.091)。

 

 

 

(3)ミカン果実の品質に影響を与える要因

 

a.病害虫および土壌の影響(ミカン木単位の解析)

 ミカン果実の品質に対する病害虫の影響を推定するために、'83、'85、'86、'93年の品質調査データの果実糖度および酸度を従属変数とし、そのミカン果実を採取した調査木のグレイド調査による7月と11月の病害虫ランクの平均(そうか病、ヤノネカイガラムシ、ツノロウムシ、ルビロウムシ)、および土壌の主成分得点(1~3)を説明変数として重回帰分析を行なった(土壌の主成分得点および方法の詳細は5章を参照)。

 その結果、糖度に対してはルビロウムシのグレイドが負の、また土壌の第三主成分得点が正の有意な相関を示すことが明らかになった(表6-5a)。また、酸度に対しては土壌の第三主成分得点が負の有意な相関を示すことが明らかとなり、それぞれミカン果実の品質に影響を与える可能性が示された。(表6-5b)。

 

b.品位-果実のそうか病(ミカン果実単位の解析)

 果実のそうか病と品質との相関を調べるために、そうか病病斑被覆度により判定された果実の品位と各品質評価値との相関を調べた。品位評価は'83年にのみ行なったため、この項のデーターはすべて同年調査時のものである。

 ①糖度への影響

 ミカン果実の品位と糖度間には有意な負の相関が認められた(表6-6-a, N=275, r=-0.18)。品位別の糖度平均値はそれぞれ、品位0: 11.21%、品位1: 10.57%、品位2: 10.28%、品位3: 10.43%、品位4: 10.35%であり(表6-6-b)、品位1~4間では品位による影響は認められず、品位0のミカンでやや糖度が高くなるという結果となった。

 ②酸度への影響

 

 ミカン果実の品位と酸度との相関係数はr=0.038 (n=275)であり、相関は認められなかった(表6-6-a)。ただし、品位4と判定されたミカンの酸度の平均値は1.76%であり、全園の酸度平均値1.44%と比較してかなり高く、この差は有意であった(T検定, T=2.358, P=0.019)。よって、そうか病の発生が深刻となり、ミカン果実の被害が品位4と判定されるほど甚大となれば、品質にも影響を与えうることが示唆された。品位0、1、2、3の各酸度平均値はそれぞれ1.47, 1.40, 1.43, 1.46%であり(表6-6-b)、品位0~3のそうか病発生は、ミカン果実の酸度に大きな影響は与えていないと考えられる。