7章 省農薬ミカンにかかる諸経費 4.収穫量と生産者価格との関係

ここでは、前記の生産費の差をふまえたうえで、農家の収益性に関して、収穫量と生産者価格の関係を考察する。

 

(1)計算式

 計算上必要な慣行園10aあたりの粗収益は、以下の3通りを考える。

 ①和歌山県の統計数値

 ②生産者(仲田氏)からの聞き取りによるもの

 ③下津町農協の資料によるもの

 

 ①和歌山県統計

 1988年から1991年までの粗収益を『果実生産費』[7-1]より拾い上げると10aあたり、88年 234697円、89年 398819円、90年 495189円、91年 732880円である。91年が例外的に高いのでこれを省いて平均化すると、10aあたりP1=376235円となる。

 ②生産者からの聞き取り

 仲田氏の慣行園での収穫に対する農協からの手取り額(生産者価格)は、1992年の聞き取りによると、1kgにつき110円から120円の間であるという。100円を割ることもあるが、そのときは採算がとれずに苦しくなるという。第5章で述べられているように、調査園SiteAおよびBにおける10aあたりの年平均収量は約1.83tであり、対象となる慣行園の値は県平均2.57tである。いま、慣行園の手取り額を115円/kgとすると、10aあたり年平均収量は2.57tであるから、P2=295550円となる。

 ③下津町農協の資料

 元下津町農協職員が著したもの[7-3]によると、下津町農協の営農類型設計基準の早生温州10aあたり粗収益はP3=280000円である。

 

 10aあたりの慣行園の粗収益          P(P1,P2,P3)

 10aあたりの収穫量の比(省農薬園/慣行園)  k

 単位あたりの生産者価格の比(省農薬園/慣行園)r

とすると、省農薬園が慣行園以上の収益をあげるには、

    krP+50473≧P

を満たす必要がある。

 

 

 

 

(2)粗収益と収穫量との関係

 いま、省農薬園と慣行園の生産者価格が同一、一定であると仮定する。

  r=1

  ∴kP+50473≧P

   k≧1-50473/P

 Pとkの関係は図7-1のようになる。

  P1=376235円のとき k≧0.87

  P2=295550円のとき k≧0.83

  P3=280000円のとき k≧0.82

 すなわち、生産者価格が同一である場合、およそk≧0.84とすれば、慣行園と同様の収益をあげることができる。言い換えれば、省農薬園の減収率を約16%以内に留めることができれば、慣行園と同様の収益をあげることができるのである。

 

 

 

(3)粗収益と生産者価格との関係

 いま、単位重量あたりの慣行園に対する省農薬園の生産者価格の比を、現状のk=0.712(=1.83/2.57)に固定させる。

   0.712rP+50473≧P

   r≧1.404-70889/P

 Pとrの関係は図7-2のようになる。

  P1=376235円のとき r≧1.216

  P2=295550円のとき r≧1.164

  P3=280000円のとき r≧1.151

 すなわち、省農薬園の収穫量が慣行園の0.712倍である現状では、およそr≧1.18とすれば、慣行園と同様の収益をあげることができる。言い換えれば、省農薬園の生産者価格を約18%増大させれば慣行園と同様の収益をあげることができるのである。

 

 

 

(4)収穫量と生産者価格との関係

 いま、仮に省農薬園も、慣行園も粗収益が同じであると仮定する。

 P1,P2,P3の平均をとってP=317000円として計算すると、

  kr≧1-50473/317000=0.841

  kr≧0.841

 kとrの関係は図7-3に示される。

  0≦k≦1  0≦r≦1と仮定すると、範囲が定まる。

 

 すなわち、省農薬園の方が収穫量が少なく、かつ、価格が安いにもかかわらず、省農薬園の方が収益が高いという場合があり得るということである。たとえば、省農薬園の収穫量が慣行園の85%程度であり、生産者価格が99%程度であれば、慣行園以上の収益をあげることができるのである。