7章 省農薬ミカンにかかる諸経費 5.集出荷および市場までの経費の比較

 ここでは集出荷等に関する経費の比較を行う。農家所得の比較を行う場合、省農薬園での生産者の手取り額には出荷にかかわる経費が含まれているので、その経費の算出が必要となる。したがって、農家所得の比較の前に集出荷などの経費を求め、比較を試みる。

 ここでは、果実が収穫された後、生産者の手を離れ、市場に運び込まれるまでを扱う。省農薬園では、産消提携型の流通経路をたどり、慣行園は農協を通して一般市場に出荷される。

 

 

(1)収穫後の作業モデル設定

 

a.省農薬園

 収穫後、調査園のミカンは、12月10日前後にそのほとんどの量が京都大学農薬ゼミへ出荷され、事前に注文をとった家庭に配送される。1987年以前は、京都大学農薬ゼミ以外に、農薬裁判支援グループである大阪の婦人民主クラブにその多くが出荷されていた。どちらも産直の形式であったことに違いはない。しかし、1987年以前は複数のルートがあり、それぞれの形式を特定することができない。したがって、省農薬園の出荷モデルとしては、生産物はすべて京都大学農薬ゼミへ出荷され処理されるとして考える。

 

b.慣行園

 和歌山県下津町の慣行園で収穫されたミカンは、いくつかの出荷経路をたどる。「商人売り」「個選」「部落共選」がその主だったものである。ここでは、仲田氏の慣行園の出荷方法を参考に考える。

 仲田慣行園の生産物は、数年前まで、農協を通さずに個人で市場に持ち込む「個選」方式をとっていた。しかし、1990年頃から、農協が全量出荷を指導し、それに反する場合は受けとらない方式を確立しようとしているため、仲田慣行園のミカンも農協出荷に変わった。もし、経費の算定に個撰方式を取り上げると、出荷諸経費の計算に必要なデータ(たとえば、何回に分けて出荷したか、手取り価格はいくらであったかなど)が、すでに入手不可能となっているため、ここではすべてを農協へ出荷する場合を想定した。

 

 以上、aとbより、省農薬園と慣行園の、収穫後の作業モデルを表7-3に示す。

 

(2)集出荷および市場までの経費の比較

 

a.調査項目(集出荷から市場で卸売りされるまで)

 ここでは、慣行園における集出荷から市場で卸売りされるまでに要する経費と、省農薬園における集出荷から消費者グループの手に生産物がわたるまでの経費を扱う。

 集出荷経費の比較費目に関しては農林水産省統計情報部『青果物集出荷経費調査報告』の調査項目によった[7-4]。ここでいう集出荷経費とは、「生産物が収納されてから、集荷、選別、荷造りを行い、市場へ運搬される直前までに要した材料費(包装資材など)、労働費、償却資産(集荷場、選果機など)の減価償却費、土地の用役費などの合計」である。細目は表7-4に示した。

 

 集出荷経費以外には、集出荷から市場で卸売れされるまでに要する経費(卸売手数料、上部団体手数料など)、および出荷奨励金を考慮する必要がある(表7-5)。

 

 

 

 

 生産費のところで行ったように、基本的には両園での作業の異なる部分のみをとりあげた。

 慣行園に関しては、和歌山県の統計上の数値[7-4]を用いた。ただし、見積もり地代、物税、流動資本に関しては、統計上の集出荷経費からさし引いて考えることとする。また、個装代、内装代については、個装、内装を行わない場合の数値をとりあげた。

 表7-4、7-5に、比較する必要のある項目をあげた。省農薬園に関しては(ホ)容器代(ヘ)外装代(ト)集荷費(チ)選別・荷送り労働費(リ)人件費(ヌ)京都までの輸送費である。慣行園に関しては統計上の集出荷経費から個装代、内装代の計上されていない数値を選び、さらに、借地料、見積もり地代、物税、流動資本を省いたものを扱う。

 

 省農薬園の集出荷経費、および消費地までの経費にかかわるものの合計をNとし、

 慣行園の集出荷および市場までの経費にかかわるものの合計をCとする。

  N=容器代+外装代+集荷費+選別・荷送り労働費+人件費+京都までの輸送費

  C=表7-4、7-5に示された集出荷など市場での卸売りまでに要する統計上の経費

  (ただし、出荷奨励金に関してはマイナスの値とする)

 

 さらに、5章で明らかにされたように省農薬園では、慣行園と比べると、果実収量に関して28.8%の減収がみられる。したがって、両園それぞれの、集出荷経費および市場までの経費に関わるものは、省農薬園0.712、慣行園1.0の収量に対しての数値である。よって、同じ数を出荷した場合にそれぞれの方法間にどのような差がみられるのかを知るため、Nを0.712で除し、N/0.712とCを対比させた。

  ・省農薬園の集出荷などの経費    N

  ・慣行園と同量出荷した場合の

   省農薬園の集出荷などの経費    N/0.712

  ・慣行園の集出荷などの経費     C

 となる。

 

b.集出荷から市場までの経費比較

 数値は、1988年から1992年までの5年間の平均をとることを原則とした。

 

 α:省農薬園

(α-ホ)容器代

 1988年から1990年までは出荷に15kg箱を使用していたが、1991年からは10kg箱になった。どちらの箱も一箱100円であった。省農薬園の収量は10aあたり1.83tである。収量と出荷量がほぼ同じと考えると、88年から90年までは15kg箱一つで100円であるから、1.83tでは12200円となり、91年と92年は10kg箱一つで100円であるから、1.83tでは18300円となる。5年間を平均すると、10aあたり14640円となる。

 

(α-ヘ)外装代

 外装代とは、レッテル、荷札、ビニールテープなどの費用である。省農薬園での記録はまったくないが、ほとんど一般の箱詰めのときと同じものを使用しているため、和歌山県の統計値を用いた。

 1988年から1992年まで、各年1tあたりの外装代が500円であるから、915円/10aである。

 

(α-ト)集荷費

 集荷費とは、農家の庭先から集出荷までの運搬費である。普通一般には、農協などの集荷施設へ行くまでである。ここでは、園からコンテナに入ったミカンを近くの保管施設に運ぶまでの運搬費ということになる。したがって、労働費とガソリン代を計上する。

 コンテナにはミカンが20kg入る。軽トラックにそのコンテナが33ケース載るので、1往復で660kgのミカンが運べる。収量は10aあたり1.83tであるから、10aあたり2.8往復である。保管施設までの1往復を2人で行うとして、30分かかる。ただし、積み込みに25分、走行に5分である。

 労働費に関しては、0.5時間×2.8回×2人=2.8時間/10aである。時間あたりの労賃は927円であるから、10aあたり2595.6円である。

 ガソリン代に関しては、走行5分が2.8回であるので、0.23時間となる。細い山道なので時速20kmとし、また、トラックの燃費を7km/リットルとすると、0.67リットルのガソリンを使うこととなる。ガソリン代を100円/リットルとして計算すると、10aあたりは、67円である。

 以上、両者を合計すると、2595.6+67=2662.6円/10aとなる。

 

(α-チ)(α-リ)荷造り労働費、人件費

 荷造りのための労働と、販売管理のための労働をおおまかにあわせて計算する。

12月になると、荷造りなど販売に関することに、夫婦2人で1日7時間ぐらい働くという。だいたい6日間かかる。省農薬園は、調査園以外に、道を挟んでちょうど同じぐらいの面積の園がもうひとつある。双方とも約0.5haである。出荷や作業は、どちらの園もほぼ同じようになされている。したがって、両園をあわせたときの数値は、1haあたりとなる。すなわち、1haのミカンを出荷するのに84時間かかることとなり、時間あたり賃金927円×84=77868円/haである。10aあたりに換算すると、7786.8円である。

 

(α-ヌ)京都までの輸送費

 京都まで、大型トラックでミカンが運ばれてくる。生産者が支払う運送費は、1988年から1990年までが1箱につき100円、1991年と1992年は1箱110円である。出荷量=収量1.83t/10aとすると、88年、89年、90年は15Kg箱を使用していたので、10aあたり122箱となる。91年、92年は10Kg箱であるから183箱となる。100円×122(箱)×3(年)+110円×183(箱)×2(年)=76860円となり、5年間の平均をとると10aあたり15372円である。

 

 α-ホヘトチリヌを合計すると、N=41376.4円/10aである。

したがって、N/0.712=58112.9円/10aである。

 

β:慣行園

 1988年から1992年までの5年間の平均を出した。

 まず、統計上の和歌山県の集出荷経費のなかから、見積もり地代、物税、流動資本を除く。そして、その集出荷経費を含む「集出荷から市場で卸売りされるまでに要する経費」から「出荷奨励金」を差し引いたものを出す。それは、以下のとおりである。

 88年 47423円、89年 50875円、90年 57908円、91年 59637円、92年 54723円       

(すべて1tあたり)

 5年の平均をとると1tあたり、54113.2円である。5章にもあるように、慣行園の平均反収は10aあたり2.27tである。したがって、C=139070.9円/10aとなる。

 

 αとβの差をみると、

  C-N/0.712=80958円

となり、省農薬園の流通経費の方が、10 aあたり80958円低い。