所 啓子(京都大学農学部農芸化学科四回生)
0. 検査法の実態
残留農薬検査は食品衛生監視員が、市場農産物に付着(残留)している農薬の量が一定の基準を超えていないかを検査するものである。この一定の基準のことを「残留農薬基準」といい、この基準は食品衛生法に基づいて厚生省が決めたもので、108種類の農薬について約7000の基準(平成7、8、14)がある。また、この検査は県や大都市の衛生研究所で行われる。「残留農薬基準」を超えた農産物は、販売、貯蔵を禁じられる。
京都市では、平成六年度に、
野菜60件(1332項目)
果実45件(1245項目)
輸入穀物製品12件(156項目)
輸入米12件(1068項目)
輸入牛肉8件(8項目)
計137検体(3809項目)について検査を行った。結果は、特に基準値を超えたものはなかったようである。(京都衛公研年報より)
残留農薬検査法
1、市場からの農産物の採取
2、前処理をしてミキサーにかける
3、最適の有機溶剤を試料に混ぜて薬剤を抽出
4、不純物や分析の妨害となるような物質を取り除く
5、抽出液を濃縮
6、ガスクロマトグラフやガスクロマトグラフー質量分析器にかける
7、別に用意した標準物質溶液と濃度を比較して、残留濃度を求める
この検査法は概略であり、さらに細かい検査法が食品衛生法により、各農薬について各農産物毎に設定されている。
京都市の場合、基準設定農薬の増加に対応するため、上述の検査法に加えて、多種農薬の一斉分析法も用いられている。今回は、この分析法の説明は行わない。
1. 検査法の問題点
・ NHKニュース ミキサーにかける時点で農薬が分解される。
・ ガスクロマトグラフで判定するため、標準物質(=スタンダード)が必要。残留の疑いがあっても、標準物質が手に入らなければ、農薬の検査ができない。
・ ガスクロマトグラフ自体高価。また機械自体の制度が低いと検査数値はでない。
・ 平成6年度に開発された一斉分析法は、精密性に欠けるのではないか。
・ 同じ試料でも扱われ方で結果が変わる。
【資料は発見できませんでした】
図3 簡易水道水500ミリリットル(松がれ防除のために散布された農薬によって汚染されている)の模式的なガスクロマトグラフ。このままではND(不検出)となる。
図4 機械の調子を整える。
図5 試料の水を2リットルに増やして丁寧に分析
2. 残留農薬基準の問題点
・ 昭和53年には、残留基準の決められている農薬は26種類だったのが、平成7年には108種類までに増えたものの新規登録農薬も増加している。
・ 基準がないと残留しても問題にならない。(基準のない農薬が非常に高濃度で検出されることがあるが、一般には知らされないまま、農産物は史上に出回る。)
3. 分析体制の問題点
・ 基準に合致しないものは販売してはならないことになっているのに、卸売市場から、農産物を収集して分析するので、結果が出たときには、すでに消費者の口に入ってしまっている。しかし、その産地からの作物は、その地域では売られなくなる。ということになり、農家へのプレッシャーという点ではこの残留農薬検査法は意味があると思われる。
ゼミで、発表したあとで新たにわかったことがあり、今回のレジュメはその時と、少し内容が異なっている。新たにわかったことは、残留農薬基準が26種類というのは昭和53年の時のものであり、現在は108種類あるということである。ということである。また、多種農薬の一斉分析が行われている(京都市で)ということも、新たにわかったことである。(いずれも和泉さんの資料からわかった。)
私個人の意見として
私が残留農薬法の問題を考えた理由は、正しく検査されているか疑問に思ったからである。「農薬が検査時に分解され検出されないことがある」というNHKニュースがきっかけである。私は私の食べるものに農薬がどれくらい残留しているかということに関心があるので、このニュースに加えて残留農薬検査法の問題について考えようと思った。
残留農薬検査法に関する問題点の中で、一番大きな問題点は、残留している農薬が検出されないまま農産物が市場へ出回ることであろう。(あるいは実際よりも少なく検出されてしまう)つまりは、検査法の精密性が問われてくるわけであるが、平成6年度より、用いられた一斉分析法の精密性については疑問が残る。また、視点を変えると一斉分析法の導入は基準設定農薬の増加に対応するためとなっている。ここで、基準設定農薬の増加は、新規登録農薬の増加に対応しており、わかりやすくいうと、全体の農薬数が多いがゆえに、検査する農薬数も多くなってしまうということである。
ここでなぜ新しい農薬がどんどんつくられ、登録されてしまうのかという疑問が出てくる。新規登録農薬の増加は、一般消費者が農作物に求める品位と価格の安さが背景にある。安くて品位のある農作物をつくるためには、農薬の散布が必要になってくるのである。この関係についてここでは詳しく述べないが、このような理由から政府は農薬の増加を促進してきたのである。しかし消費者の中から農産物の安全性について考えはじめる人々も出てきて、農作物に品位と価格の安さだけを求める時代ではなくなってきているように思う。したがって政府もこのような体制を見直すべき時期にきているのではないかと思うのである。
残留農薬検査法の問題は、それ自体の問題に留まらず政府の体制の問題であり、それはとりもなおさず消費者の意識の問題なのである。