食品添加物について

by榊 哲郎(京都大学農学部生産環境科学科2回生)

 

化学調味料にみる食品添加物の実体

1、あなたも毎日食べている──使用の実態

 

化学調味料の使用が確認された食品 

 

冷凍食品 ピラフ、五目炒飯、冷凍おかずのほぼ全部
レトルト食品 カレー、シチュー、スパゲッティソース、野菜スープ、等全てのものに使用
缶詰 いわしの煮付、さんまのかばやき
飲料 ファイブミニ、ポカリスエット
インスタント食品 ラーメン、みそ汁、ちらし寿司のもと
その他

カレールー、コンビニ弁当、振りかけ、味つけぽん酢、マヨネーズ、だしいり味噌、納豆のたれ、だしの素、ドレッシング、味の素、出来合いのお総菜、ハンバーガー、コンビニのおにぎり、漬け物

 

こうしてみると、野菜や肉そのものなどをのぞくほとんどの食品に化学調味料が使われていることがわかります。特に、加工食品や、コンビニの食品には、まず間違いなく使用されているといえます。

                          

2、変な名前で出ています──表示の実態

  化学調味料が使用されているかどうか知るためには、食品のパッケージに書いてある、<原材料名>という表示を見ます。化学調味料は、

調味料<アミノ酸等>

 

 と、表示されています。もし、きちんと表示したら、以下のようになります。

 

<化学調味料;グルタミン酸ナトリウム/イノシン酸ナトリウム>

 

 現在の表示は、使用されている物質名が分からないだけではなく、それが化学調味料であることすら分かりにくくなっています。

 

3、<アミノ酸>だから、安心?──製法/安全性

 化学調味料は、細菌に養分を与えてグルタミン酸を生産させ、それを、中和、分離して生産されています。消費者団体は、化学物質<人造物質>であり、安全ではないと主張し、食品企業は、自然界に存在するもの<自然=安全>だし、国の基準を満たしていると反論しています。両者の主張は、化学調味料の安全性をめぐって真っ向から対立しています。以下に、両者の対立点を挙げておきます。

 

<消費者団体>   

1, 中華料理を食べた後起こる、頭痛やだるさを生ずる中華料理店症侯群は、グルタミン酸ナトリウム<以下、gms>によるものである。事実、東京都や日本即席食品工業会は、独自規制に踏み切った。

2, 幼若マウスにgmsを注射する実験をすると、大脳視床下部の脳細胞が死に異常肥満となる。

3, 幼若マウスにgmsを飲ませる実験をすると、目の網膜が損傷を受ける。

4, 高温調理<180~350度、油調理時に発生>で変化し、発ガン性物質ができると国立がんセンターや、同志社大学教授が報告。

5, gms<ナトリウム塩>は、3グラムで食塩1グラムに相当し、塩分のとり過ぎになる。

6, gmsは、食べ物本来のうま味ではなく、画一的な、加工食品の味をつくるものである。日本人が味オンチになる。

 

<味の素社の反論>       

1, 中華料理店症侯群は、gmsが原因であるとは断定できない。追試では、こういった症状は現れなかった。<ケニー、ウイルキンらの実験>

2, 幼若マウスは、gms感受性が最も高く、霊長類は最も感受性が低い。また、食品添加物中のgmsは、消化の過程で分解され、血中に大量に入ることは無い。注射するという条件は、現実的では無い。

3, 大量のgmsだけを飲ませたなら、血中gms濃度も上がり、神経も障害を受けるが、水を自由に飲める状態なら、何も起こらない。実験条件が特殊すぎる。  

4, gmsは、加熱調理によって変化することは無い。社内実験で確認済み<100~115度、煮物調理のみ>

5, 料理の塩分を、20~30%減らしてもgmsを用いれば、おいしさはほとんど変わらない。<社内実験> 

6, 味覚には、甘い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、の他にうま味というものがはっきりと存在する。gmsと、イノシン酸ナトリウム<化学調味料のもう一つの主成分>の間には、うまみの相乗作用がある。<2物質の混合液による実験で確認。実際の食事による実験ではない。>これらの2物質は、調理素材にも含まれているから、gmsと料理素材の間にもうま味の相乗作用が起こると思われる。従って、gmsは食べ物本来のうま味を引き出すといえる。

 

 

 一見すると、どちらの言い分ももっともらしく思えます。ただ、味の素社の反論には、いくつか疑問が残ります。反論(4)で、加熱によるgmsの化学変化はないと主張していますが、社内実験で確かめられているのは、115度までに過ぎません。つまり、油で炒めたり焼いたり、オーブンを用いたりした場合については、保証していないということになります。また、反論(5)で、gmsは料理の減塩を可能にすると言っているものの、実際に味の素社が製造している食品<特に風味調味料>には大量の塩分が含まれ、そのことを消費者に十分意識させるような表示はしていません。反論(6)に至っては、2種類の純物質の混合液で得られた実験結果をそのまま実際の食べ物のおいしさに当てはめています。個人的な経験ですが、コンソメや、ほんだしといったもので付けた味はどうしても塩辛く単調なものになります。料理のおいしさは、やはり素材に含まれる多くの物質のバランスから生まれるものだと思います。

 cgs自体の安全性については、自分自身結論はでていません。しかし、安全性について疑問を残したまま、あらゆる食品にcgsを使用している現状は、大いに気になります。

 

4、看板に偽りあり?──イメージ広告の実態

 化学調味料は、いったいどのようにして販売されているのでしょうか。ここでは、その例として、農薬ゼミの夏の調査の時の調理にも利用された、<コンソメ>を取り上げます。<コンソメ>は、味の素社が製造している乾燥スープで、<ほんだし>などとともに一般には風味調味料と呼ばれ、簡単にだしをとることができます。<コンソメ>の容器の側面を見ると、こう書かれています。

 

味の素コンソメは肉と野菜のエキスがギュッとつまった、料理にコクとうまみを出す洋風のだしです。野菜のうまみがさらに充実!

 

 また、容器には肉や野菜の入ったスープの写真まであります。これを見て、買う人は、どんなイメージを抱くでしょうか。<コンソメ>を肉や野菜を煮たスープを濃縮したものだ、と考えても不思議ではありません。一方、容器の原材料の欄に目をやると、こう書かれています。

 

原材料名;

食塩、乳糖、砂糖、調味料<アミノ酸等>、食用植物油脂、香辛料、酵母エキス、ビーフエキス、しょうゆ、酸味料、カラメル色素、野菜エキス

 

これをわかりやすく書き直すとこのようになります。

 

原材料;

食塩(58.4%)、乳糖、砂糖(計30.3%)、食用植物油脂、香辛料、酵母エキス、ビーフエキス、しょうゆ、野菜エキス

食品添加物;

化学調味料<グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム>酸味料、着色料<カラメル色素>

 

 <コンソメ>の中身は、食塩と砂糖が半分以上を占めるものだったのです。さらに、化学調味料がそれについで多くを占め、肝心の肉や野菜は、エキスという形でごく少量使われているに過ぎません。<コンソメ>以外の風味調味料ではどうでしょうか。食品成分表は、残念ながら、これが風味調味料の実体であることを教えてくれます。(グラフ1)しょうゆや、かつお節と言った本物の天然だしと比べたとき、その食塩と砂糖の含有率の高さが目に付きます。しかも、料理をつくる人は、大抵このことを意識することができません。なぜなら、原料比率は、表示されていないからです。商品の本質を分かりにくくした上で、<自然、天然、ビタミン、ベーターカロチン>といった消費者がよいイメージを持つ言葉で広告するのが、企業の戦略なのです。風味調味料のほかにも、清涼飲料水や、薬、シャンプー、洗濯用洗剤などが、特にこのイメージ広告を多用しています。グラフ1 各種だしの成分比較<四訂、食品成分表1993による>

 

5、企業と行政の態度──他人に食べ物はまかせられるのか?

 食品添加物関係の本を読んでいて、気になることがひとつあります。それは、本の著者が消費者団体もしくは、食品企業関係者ばかりであることです。彼等が、意図的か無意識的かは別にしても、真実を歪めている可能性があるのです。家庭の女性が中心となっている消費者団体には、化学物質アレルギーのようなものがあります。単なる母性本能ではなく、理性に基づいた一般人に受け入れられる活動が求められます。一方、企業には、また独特の雰囲気があります。水俣病で悪名名高いチッソ水俣工場のもと社員は、こう語っています。(いざ、会社関連の実験をやろうとすると、手が震えて<会社に不利な>結果を知るのが恐ろしいくらいだった。)(会社ってのは、物をつくるのが前向きの仕事。こうではなかったと言ってばかりいるのは、前向きの仕事ではない。いうなれば、無かったほうがよかった)

 これらの発言は、意味深長です。利潤追求を第一とし、会社への愛着心と忠誠心を要求する雰囲気で会社に対してしか責任をとらない人間をつくりだす価値観が、そこにはあります。その結果、安全性は、よほど企業のイメージにかかわることでない限り軽視される恐れがあります。 

 企業に良心が期待できないなら、行政にきちんと食品添加物を規制してもらえばよい、と考える人もいます。食品企業も<国の規制を守っているから安全だ>等とよく主張します。しかし、本当にお上は食の安全性を守ってくれるのでしょうか。よく、政、財、官の癒着が問題になります。最近厚生省が、これまで野放し状態だった天然添加物において、現在使用されているものを、そのまま使用してよいとの方針を打ち出しました。あまりにも種類が多く、検査が困難だというのが理由です。これは、原料が天然でありさえすれば、いかなる添加物にもお墨付きを与えることになりかねません。こうした最近の態度を見てみても、行政もあまり当てにはなりません。

 

6、提言──<私、食べるだけの人>からの脱皮

 今や、化学調味料を使用していない食品の方が珍しい時代となりました。なにが、このような化学調味料の氾濫を招いたのでしょうか。昔と今で一番変わったこと、それは、食をつくる人と、食べる人の間の距離が遠くなったことではないでしょうか。食が、サービスとなり、商品となるのが当たり前の時代です。このために、食をつくる人と、食べる人の求めるものが食い違うようになってしまったのです。具体的に考えてみましょう。化学調味料がなかったら、調理はできないのでしょうか、そんなことはありません。というのは、食べるだけの人の意見です。食を商う人、特に大規模な食品企業にとって化学調味料は大変ありがたいものです。彼ら食品企業は、食べるだけの人の多くが価格と見た目とイメージで一瞬のうちに買う食品を選ぶことを知っています。食べた後の味は、残念ながら、次に食品を買うときの決め手にはなりません。ましてや、目に見えない食品添加物のことなどを購入の判断材料にする人はまずいません。こうなると、食品企業は工業製品のような食品をつくるようになります。安くて見た目がよく、イメージのよい食品だけが市場の淘汰によって残っていく結果となります。化学調味料は、食品のコストを下げ、味のばらつきをなくすのに絶大な威力を発揮するのです。利潤を求める食品企業にとって、これほど役に立つものはないのです。こうして、化学調味料が他の多くの食品添加物とともに氾濫するようになりました。

 こうした状況の中で、消費者は、次第に受け身の存在となってしまいました。食品企業の広告やテレビから流れる情報を苦労せずに受け取ることに慣れた結果、目に見えないものにきわめて鈍感になったのです。いまだに、消費者には、見た目のきれいなものほど鮮度が高く、おいしい食品であるという誤解があります。しかし、今や、危険な食べ物は、目で見てわかるようなものではありません。食品添加物、ポストハーベスト、放射能、残留抗生物質、TBTO<養殖漁業で、網への藻の付着を防ぐのに用いる有機スズ>、等、現代の食を脅かすものの多くは、目で確かめることの出来ないものです。毎日食べるものの安全性は、その人の健康に直結します。これは、昔も今も変わらない事実です。従って、今自分の健康を守るためには、<食べるだけの人>を脱皮することが必要です。つまり、自ら情報を集め、自分の食の中身を自分で点検することで、食べ物の本当の価値を判断する目を自分で養うしかないのです。そうして養った目を自分の回りの人々、特に子どもに広げることも大事です。<疑わしきは避ける>の原則を貫けば、食のリスクを大きく減らすことが出来ます。

 

7、参考文献──<本物の目>を養うために

・安全な食べものたしかな暮らし、三一新書、石田研究室蔵

家庭を持つ女性の消費者団体である安全食品連絡会の著。消費者団体の食品添加物に対する意見を知るのに向く。食品企業、行政非難の意志が明確。

・うま味調味料の知識、幸書房、京大付属図書館蔵

元味の素社社員の大学名誉教授太田静行著。日本うま味調味料協会<旧日本化学調味料工業協会>寄贈の本であることからも、明らかに消費者運動に対する味の素社の反論書の性格を持つ。グラフや専門用語を駆使して正確そうに・見せているが、疑問点は残る。

・薬品食品公害の20年、石田研究室蔵

みかん山農薬中毒死事件でも活躍した、高橋晄正氏の著。消費者の視点から、薬、食品添加物、残留農薬<魚の>、等について広く科学的に書かれている。低温殺菌牛乳運動を全面否定している点が、他の本と異なる。

・四訂、食品成分表1993、石田研究室蔵

科学技術庁資源調査会編。食品の成分を第三者の立場で知ることが出来ると思われる本。<コンソメ>や、風味調味料等の成分は、この表によった。

・<会社別、製品別>市販食品成分表、農学部付属図書館蔵

女子栄養大学出版部編著。風味調味料や、清涼飲料水、加工食品などの成分が分かる貴重な書。ただし、1978年出版とかなり古い。